トレッキングツアーのビリヤニ
ケララ州のムンナールはインド有数の美しい山岳観光地で、茶葉やスパイスの生産地でもある。普段使っているスパイスがどんな場所でどんなふうに作られているのか知りたくてムンナールを訪れた。山の斜面に広がる大規模な茶畑と、ジャングルのような段々畑に密生するスパイス。これらを巡るトレッキングツアーで見ることができた生のカルダモン、クローブ、ナツメグ、ペッパー、他にもたくさんのスパイスやハーブ。終日歩き通すツアーだから朝も昼も弁当が提供される。正直なところ弁当の味まで期待していなかったけれど、絶景が広がる岩の上でいただいた朝食のダルやチャパティは家庭的な滋味に溢れ、お昼のチキンビリヤニはびっくりするほど美味かった。道中、民家の軒先に腰を下ろすと新聞紙に包まれたビリヤニが渡され、ライタ、ピックルなど副菜をみんなでシェアする。地べたに座っていただくビリヤニは、今も忘れられない最高のご馳走だった。
山のふもとのインド料理店
歩くのも走るのも好きで、その山のふもとにあるから「衣張山食堂」と名のることにした。ムンナールを旅したことで山とインド料理の組み合わせも私には自然に思えて、屋号はとても気に入っている。食堂を通じて衣張山に興味を持ってもらったり、ハイキングやランニングのあとそのまま来店いただいたり、インド料理をお供に山を楽しんでいただいたりとイメージが膨らむ。山ありきのようだけれど信条は違う。お越しになったお客様をがっかりさせないインド料理でお迎えすること、それに尽きる。現地で味わった料理の感動をこれからも一皿一皿に盛り付けていくために、その熱意が冷めないように。気がつくとインド行きの航空券を検索しているのはきっとそうした理由からなのだ。
meCURRY 衣張山食堂 五十嵐洋人